股関節人工骨頭置換術とは

人工骨頭置換術とは

変形性股関節症や関節リウマチ、大腿骨頭壊死症などで股関節に障害が生じたときに、人工股関節に置き換える手術のことを人工股関節置換術といいます。人工股関節置換術は、痛みや動きの制限などが生じていた股関節を人工股関節に置き換えることにより、症状の改善が期待できる手術です。

人工股関節置換術は、術後の経過がとても良い手術と言われています。

大腿骨頸部骨折での人工骨頭置換術の写真

手術の術式により術後の生活が大きく左右されますので、以下に紹介します。

人工骨頭置換術の種類

手術の仕方は大きく2つに分けられます。前方アプローチか後方アプローチで前後どちらから手術を行うかです。どちらにするかは手術を行う医師の技術や状況判断に異なります。

前方アプローチ(DAA; direct anterior approach)

前方進入法は、股関節前面を約6cm~10cm程度切開し、腱や筋肉を切らないずに小さな傷ですむ人工股関節置換術です。

人工骨頭置換術の挿入方法

最大のメリットは

①脱臼リスクが極端に少ないため、術後の運動制限も少ないことです。

②筋、腱を切らないため、早期退院が可能。

後方アプローチ

後方アプローチは、股関節の後ろから皮膚を切開して骨盤-股関節に付着している筋を切開して手術を行うものです。従来から行われている一般的な方法です。最近では、筋の修復や非切離手法もよいられているようです。

前方アプローチと違い、股関節後ろの筋を切開するために、術後の脱臼リスクが伴います。但し、後方アプローチにおいても、一旦切離した短外旋筋を修復することで、脱臼リスクの軽減は可能です。

また

筋の切開するために、術後の回復に時間がかかります。

脱臼リスク

脱臼は、無理な動きをして、大腿骨の一部が骨盤側に当たり負荷がかかることで人工関節の頭がカップの中から押し出されて外に飛び出すことで生じます。

後方アプローチは脱臼しやすい。

前方系アプローチの脱臼率は0~2.2%で、後方系アプローチの脱臼率は1~9.5%と言われています。

後方アプローチでは関節を覆う筋、腱を切っての手術になるため脱臼リスクが上がるためです。

前方アプローチでは、筋、腱を切らずに手術をするため脱臼リスクは少なく、禁忌肢位もありません。

リハビリ

一般的には手術翌日からリハビリを開始します。体重をかけて立ち上がり、歩行器を使って歩く練習から始めます。術後4日目くらいには、ご自身で起き上がり、歩行器を使って歩けるようになる方が多く、約2週間程度で退院される方が多いです。階段昇降ができ、一人で外歩きができるようになるくらいまでリハビリを進めていきますが、手術後の股関節の状態や筋力、年齢や元々の運動習慣によってもリハビリの進み具合は違います。

人工股関節におけるリハビリは、時期ごとに違います。

  • 手術前リハビリ
  • 手術後リハビリ

リハビリと聞くと、手術の後に行うものだと思っている方も多いかもしれません。しかし、基本的に手術の前からリハビリを行います。手術前から継続的にリハビリを行うことにより、手術後の股関節機能改善や歩行能力の回復がスムーズに獲得できるからです。手術前からリハビリを行うことでその後回復も良好となるデータも出ています。

手術前のリハビリは以下の内容を行います。

手術前リハビリ

  • 筋力増強訓練
  • 関節可動域訓練
  • エアロバイクなどでの持久力運動
  • 車椅子、松葉杖での移動訓練など

まずは、患者様の生活様式やご自宅の様子などを聴取して、退院するために必要な身体能力を想定してリハビリメニューを組みます。その他にも手術前の筋力や関節可動域、痛み、歩き方など身体状況についても情報収集を行っていきます。

筋力増強訓練や関節可動域訓練、持久力運動などは、手術で股関節機能が衰えることを防ぐために実施します。車椅子移乗動作練習や松葉杖歩行訓練を術前に行うのは、手術後すぐに自分一人で移動できる手段を習得するためです。

手術後リハビリは、術後翌日からリハビリを行います。まずはベッド上でのリハビリ、患者様の状態に合わせて徐々にリハビリの強度を上げていきます。

手術後のリハビリは以下の内容を行います。

手術前リハビリ

  • 筋力増強訓練
  • 関節可動域訓練
  • エアロバイクなどでの持久力運動
  • 立ち上がり動作訓練
  • 歩行訓練(歩行器、平行棒、杖など)
  • 階段昇降訓練
  • 生活動作訓練など

手術後早期からリハビリを行うことにより、術後安静にしているよりも筋力や関節可動域などの股関節機能が有意に改善すると報告されています。安静にしすぎると、血管に血の塊が詰まる血栓症のリスクが高まるため、積極的に早期離床を促していきます。

その後は、体の状態にあわせて歩行訓練や階段昇降訓練、靴下の脱着や爪切りなどの日常生活動作訓練等、さまざまなリハビリを行います。

予後

最新の人工股関節の寿命は、昔に比べ、格段に延びています。人工股関節の登場から約50年が経過し、改良が重ねられ、現在の機種は、素材の耐久性が飛躍的に上がっています。

現在の人工股関節は、30~40年後にも問題なく使えていることが期待されています。つまり、60歳以上の患者さんであれば、100歳まで使用可能となる時代が近づいてきています。

但し、リウマチや骨粗鬆症など症状によっては人工関節以外の骨が弱ってしまう場合があり、耐久年数よりも短くなるケースがあります。

退院後の生活(できる事・できない事)

人工股関節置換術の手術方法によって退院後の生活に大きく異なります。

できる事

前方アプローチ:比較的なんでもできます。スポーツも(ジョギング、登山、水泳、ゴルフなど)可能です。

後方アプローチ:脱臼リスクに気をつければ、概ね生活は送れます。

できない事

前方アプローチ:カラダの激しい接触のあるスポーツは避けた方がいいでしょう。

後方アプローチ:手術した脚を内側に入れるようなしゃがみ込み、横座り、足を組み動作などは注意が必要です。

自宅でできるトレーニング

骨盤、腰、股関節周りは柔らかくしときましょう。

皮膚や場合によっては筋を切開するため、少なからず痛みや皮膚・筋の癒着が生じる場合があります。
痛みを避けて運動を避けた生活を送ると、腰など他の部分に負担がかかってしまいます。リハビリスタッフと相談してご自身でマッサージするのも有効です。但し、自己流はやめましょう。

お尻周りの筋肉を鍛えましょう。

手術した脚を鍛えることは、人工関節や周りの骨への負担を減らす事ができます。ベッドに横になった状態で、お尻上げをするなど定期的に運動習慣を設けましょう。脱臼リスクのある患者様はリハビリスタッフと相談しながら行うことがオススメです。

術後のあるある

手術はうまくいっても、臨床の場面ではなかなか良くならない場合をよく経験します。以下に臨床場面で経験する事例を紹介します。

腰が痛くなってきた

術後の患者様で多いのが腰痛です。

術後の影響や元々の姿勢から股関節前面の関節拘縮や骨盤前傾、腰椎前弯などによって腰痛を生じ場合があります。

脱臼を繰り返す

元々の筋力や術後の影響など様々ですが、脱臼を繰り返す方がいます。

脱臼してしまうと通常は股関節がものすごく痛みます。外れた状態で足が固定されてしまうので、自力で動かすこともできません。

人工股関節の脱臼を治す方法は、脚を引っ張って元に戻します(徒手整復)。ただし、もともと筋肉の緊張が非常に強い人、いわゆる体がとてもかたい人の場合は、引っ張る力に限界があるため、再手術が必要になることがあります。

退院後の選択肢

股関節人工骨頭置換術の予後は比較的よいとされていますが、中には手術をしてもなかなかよくならないケースもあります。しかし、入院期限によって退院しなければいけない場合もあります。

退院後の選択肢として…

外来リハビリ
外来リハビリにも種類があります。物理療法(低周波や温熱療法)をメインとするか、徒手療法をメインとするかで変わってきます。

どちらも短時間となるため、忙しい方にはオススメです。どちらも同時にやりたい人もいるかもしれませんが、物理療法と徒手療法を同時にやってくれるところは稀でできても短時間です。

訪問や通所での介護分野でのリハビリ
介護分野でのリハビリは主に維持が目的となります。手術後に運動する機会が減ってしまった。痛みとかはないが今後が心配だから継続して運動したいといった方にはオススメです。

自費リハビリ
外来リハビリとは違い、長い時間リハビリを行うところが多く、運動機能の維持ではなく改善を目指すとこが多い印象です。マンツーマンで積極的にリハビリをしたい、運動機能も維持したいといった方にはオススメです。しかし、自費リハビリのために値段が高く、施設数も少ないため自分で探すのが大変になってきます。

まず、入院先のリハビリスタッフや主治医と相談することをオススメします。